推薦文はAIに書かせない——人材紹介で人が握るべき最後の砦

「推薦文もAIに書かせているんですか?」——この仕組みの話をすると、必ずこう聞かれます。答えは、いいえです。人材紹介の現場でAI活用の話をすると、「推薦文 AI」という組み合わせに、みなさん一番強く反応します。文章を書く仕事だから、AIが一番効きそうに見える。実はそうではありません。むしろ推薦文こそ、最後まで人が握るべき場所だと僕は考えています。
今日は、実際に稼働している二つの仕組みを題材に、「AIに任せる領域」と「人が握り続ける領域」の線をどこに引いたかをお話しします。結論から言うと、事実の処理と定型作業はAIに、価値判断とタイミングの判断は人に、というシンプルな原則です。シンプルですが、これを最後まで貫くのは、思ったより難しいというのが正直なところです。
職務経歴の言語化はAI、推薦文の売り込みは人
面談で聞いた話を「職務経歴(詳細)」という定型フォーマットに落とし込む作業は、正直、誰がやってもそこまで質に差が出るものではありません。むしろ人手でやると、記憶が薄れる、細部が漏れる、担当者ごとにクオリティがばらつく、という劣化が起きやすい工程です。付加価値を生まないのに、時間だけは食う。だったらここはAIに任せるべきだと判断しました。
仕組みとしては、面談録画(tl;dv)の文字起こしをAIに読み込ませ、自社の文体に合わせた職務経歴詳細の草案を生成し、記録システムの予備欄に書き込みます。人が手で書いてきた本欄には一切触れません。ここは聖域として残しています。草案は人が確認し、修正してから本欄に反映する、という順番です。
導入する前、正直に言うと、担当者から「AIの下書きを直すくらいなら自分で書いた方が早いのでは」という声が出るだろうと予想していました。実際に触ってもらうまでは、僕自身もその可能性を半分は疑っていました。ただ蓋を開けてみると、白紙を埋める作業と、埋まっているものを直す作業とでは、かかる時間以上に精神的な負荷が違うという反応の方が多く、この懸念は杞憂に終わっています。
実証してみると、面談1件から約1,800字の草案が生成され、転職背景や志向、希望条件まで拾えることが確認できました。悪くない精度です。ただし、面談で聞けなかった項目については「(面談では伺えず・要確認)」と正直に書かせています。ここで情報を作り出させたら、この仕組みは終わりです。AIに嘘をつかせない設計にしないと、後で必ずしっぺ返しが来ます。
導入して最初にわかったのは、担当者の作業がゼロから書く仕事ではなく、赤入れをする仕事に変わったということです。白紙のドキュメントを前に構成から考える負荷と、すでに8割埋まった文章を読んで直す負荷は、同じ時間でも体感がまったく違います。この変化は数字には出づらいのですが、現場では一番実感されている部分です。
精度を上げる勘所も見えてきました。文字起こしだけでなく職務経歴書も一緒に読ませると、会話には出てこなかった実績の数字まで拾えて、人が書いた水準にぐっと近づきます。つまり情報源を複数持たせるほど、AIの下書きは「使える」ものに変わっていく。地味な学びですが、実装する上ではかなり効いています。運用しながら気づいたのは、この「情報源を増やす」という発想自体が、人がやっていた頃には誰も明文化していなかった暗黙知だったということです。ベテランの担当者は無意識に職務経歴書と面談の記憶を突き合わせて書いていたはずで、それをAI向けに言語化して初めて仕組みとして共有できるようになりました。
そして、繰り返しになりますが、推薦文そのものはAIに書かせていません。自動化したのは「情報の言語化・下書き」までです。企業に候補者をどう見せるか、どの実績を前面に出すか、どんな言葉で温度を伝えるか——これは人の意思決定であり、人の文章です。ここを譲った瞬間、紹介会社の付加価値の大部分が消えると僕は思っています。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、本気でそう考えています。
面談から草案生成、記録システムへの書き込みまでは、すでにE2Eで一気通貫の実証が済んでいます。1件あたり約1,800字の草案が自動で出てくる、という数字は実測です。誇張したくなる場面ですが、ここは淡々と事実だけを書きます。効果として見えているのは、職務経歴の言語化にかかっていた時間が、確認と仕上げだけに圧縮されたことです。ゼロから書く時間がなくなり、直す時間だけが残る。これは体感差の大きい変化で、担当者の負担感を下げる効果が思いのほかありました。ただ、これはあくまで「下書きが速くなった」という話であって、「推薦文の質が上がった」とイコールではありません。そこは切り分けて考える必要があります。
不合格連絡は、地味だからこそ設計が甘くなりがちです
不合格通知の作成は、人材紹介の業務の中で地味な扱いを受けがちですが、実は最も神経を使う工程の一つだと僕は思っています。この業務を軽く見ていた時期が、僕自身にもありました。
課題は三つ重なっていました。一つ目は、候補者一人ひとりに失礼のない文面をゼロから書く手間です。二つ目は、企業から届く見送り理由の中に、そのまま候補者に伝えてはいけない情報が混ざっていることです。年齢を理由にした見送りや、エージェント限定の注記などがこれにあたります。三つ目は、書類選考の見送りは応募直後に即連絡すると不信感を生みやすいため、意図的に日数を空けるというタイミングの使い分けが必要なことです。
この三つ目が特に厄介です。丁寧に書くことと、丁寧なタイミングで伝えることは、別の技術だからです。
「分離」が設計の肝で、送信の最終承認は人が握ります
仕組みとしては、毎朝6時にGmailから企業→当社の見送り連絡を検知し、書類選考の不合格か面接後の不合格かをAIが判定した上で、候補者本人宛の丁重な下書きを自動生成します。お礼、結果、やわらげた形での具体的フィードバック、そして今後の伴走の意思、という流れです。担当者はダイジェストを確認し、送信ボタンを押すだけ。承認するまで、メールは1通も送信されません。
ここで一番大事にしたのが「分離」です。企業からの生の見送り理由は社内メモとしてのみ表示し、候補者向け文面には絶対に混ぜません。年齢理由やエージェント限定の注記、人格否定的な表現は機械的に遮断します。人が見落とすリスクを、機械的なルールで先回りして潰す、という考え方です。
タイミングも型に落としました。書類選考の不合格は、判明から3営業日空けてから解禁し、それまでは保留表示にします。面接後の不合格は即日対応可能です。この差は、候補者側の心理的な受け止め方の違いに配慮したものです。即レスが正義とは限らない、というのがこの設計の前提にあります。宛先が自動特定できなかった場合は、誤送信を避けるために送信ボタン自体を出さず、手動対応に落とします。ここは慎重すぎるくらいでちょうどいい、というのが僕の判断です。多少の非効率を許容してでも、誤送信という取り返しのつかない事故は絶対に避けたい。
導入時、担当者にまず説明したのは「これは効率化のための仕組みだが、責任の所在は何も変わらない」ということでした。AIが下書きを作っても、送信ボタンを押した人が最終的な文責を負う、という前提を先に共有しておかないと、現場は安心して使えません。この説明を丁寧にしたことが、結果的に運用の定着を早めた気がしています。
運用を始めてから気づいたのは、担当者が毎朝ダイジェストを確認する数分間そのものが、業務の質を保つチェックポイントとして機能しているということです。AIが下書きを作ってくれるからといって、担当者の目が不要になるわけではなく、むしろ「最終確認をする人」としての役割がくっきりします。効率化のつもりで作った仕組みが、結果的に品質管理の工程を可視化した、という副産物です。
検証時、直近7日・43スレッドから面接不合格3件を高い確信度で検出し、全件で宛先特定と良好な文面トーンを確認できました。これは自社での実測です。派手な数字ではありませんが、派手さを求めていない工程なので、これでいいと思っています。効果としては、丁重な不合格連絡をゼロから書く作業が、確認とワンクリックに圧縮されました。これは本番稼働中の仕組みです。担当者の心理的な負担、つまり「今日も不合格連絡を何件も書かなければいけない」という重さが、確認作業に置き換わったことの意味は、数字以上に大きいと感じています。
AIに任せる境界線は、「取り消せるかどうか」で引くとうまくいきます
二つの事例に共通しているのは、AIに任せているのが「事実の処理」と「下書きの生成」までで、「価値判断」と「送信・最終文章化」は必ず人が担っている、という構造です。この境界線をどこに引くべきか、僕なりの基準を一つ挙げるとすれば「取り消せるかどうか」です。
職務経歴の草案は、修正すればいくらでもやり直せます。だから下書きまでAIに任せられる。しかし推薦文は企業への売り込みの核であり、一度送れば取り消せません。不合格連絡も同じで、一度届いた言葉は候補者の記憶に残り続けます。取り消せない行為の最終判断は、常に人が持つべきだと考えています。
これは効率化に後ろ向きな主張に聞こえるかもしれません。ですが僕は、これはむしろ効率化を長続きさせるための線引きだと思っています。AIに全部任せて一度信頼を損ねれば、候補者からも企業からも二度と話を聞いてもらえなくなります。事実の処理をAIに渡して時間を作り、その時間を人にしかできない判断に使う。この配分こそが、人材紹介という商売がAI時代にも生き残るための、地味ですが確実な設計だと僕は思っています。
※当社の採用・人事組織系支援にご興味がある方はお気軽にお声掛けください。