PREP | INTERVIEW

面接対策こそ、AIに仕込む価値が一番大きい

山根 一城
面接対策こそ、AIに仕込む価値が一番大きい

合否の連絡が来ない。

「その企業、なんで見送りだったんでしたっけ?」

社内でこの質問をされて、記憶を辿りながら答えたことのある方は多いのではないでしょうか。僕自身、何度もこの場面に立ち会ってきました。面接対策というのは、多くの人材紹介会社にとって「担当者の腕の見せ所」だと思われています。経験豊富なエージェントが、これまでの勘と記憶で候補者に的確なアドバイスをする。これが一般的な理解だと思います。

ただ、実はそうではありません。面接対策の質を担保しているのは、多くの現場で「個人の記憶力」という、極めて脆弱な基盤です。そしてこの基盤は、企業や求人が増えれば増えるほど、簡単に崩れます。

面接対策 AI 人材紹介という組み合わせが、最も効果を発揮する場所だと考えています

僕らは人材紹介事業を営む中で、これまでいくつもの業務にAIを組み込んできました。その中で個人的に一番手応えを感じているのが、面接対策です。理由はシンプルで、面接対策は「過去の情報が多いほど、次の1人の支援の質が上がる」という構造を持っているからです。

これはAI活用における一般的な原則とも重なります。蓄積された事実データが多いほど、AIの出力は的確になる。逆に言うと、蓄積の仕組みがない業務にAIを投げても、期待した精度は出ません。面接対策は、まさにこの「蓄積がものを言う」業務の代表格だと個人的には捉えています。

人材紹介という仕事は、求人開拓・候補者面談・書類選考・面接対策・条件交渉と、工程がいくつも連なっています。この中でAIを組み込む優先順位をどこに置くか、経営者としては悩ましいところだと思います。僕自身、色々な工程を試してきましたが、投資対効果が最も高いのは「情報が積み上がるほど強くなる工程」だという結論に至りました。書類選考の効率化や日程調整の自動化も価値はありますが、それらは1件1件が独立していて、蓄積による複利が効きにくい。一方、面接対策は違います。ある企業の見送り理由が1件増えるたびに、次にその企業を受ける候補者への助言が具体的になっていく。これはAI駆動経営を考えるうえで、非常に重要な視点だと僕は思っています。

合否理由は、担当者の記憶の中で眠って終わっています

僕らのクライアント企業で、4月以降の選考結果メールを棚卸ししたことがあります。結果は、104社・162名分・約1,000件の合否理由が、活用されずに受信箱に眠っていました。内訳は見送り880、面接通過106、内定2、辞退12です。

この数字を見たとき、正直かなり驚きました。1,000件という数は、決して小さくありません。そしてこの1,000件のほとんどが、メールやメモに散らばったまま、誰の目にも触れずに埋もれていたのです。

同じ企業に別の候補者を推薦するとき、本来であれば「この企業は前回、こういう理由で見送りにした」という学びが活きるはずです。ただ実際には、その学びは担当者個人の記憶に依存します。経験の浅い担当者がその企業を引き継いだ瞬間、蓄積された知見はゼロからのスタートになります。これは組織としての損失だと、僕は考えています。

1件の見送りは、放置すれば単なる失注で終わります

成約1件あたりの手数料は、当社の場合150万円規模になることが多いです(※あくまで一例であり、御社の単価で再計算していただければと思います)。この重みを持つ情報が、記録されずにただ流れていく。これはもったいない、というレベルの話ではなく、構造的な機会損失だと個人的には思っています。

面接対策が属人化する背景には、「この企業は何を見ているか」という情報が、担当者個人の経験値に依存してしまう構造があります。経験豊富な担当者がついた候補者は手厚い対策を受けられる一方、経験の浅い担当者がついた候補者は、同じ企業を受けるにもかかわらず、対策の質が落ちる。これは候補者にとって、あまりにも不公平な話です。

だからこそ僕らは、「見送りの理由を資産化する」という発想に切り替えました。1件の見送りは、次の候補者にとっての合格材料になり得る。この前提に立って、仕組みを設計し直しました。

誤解がないように申し上げると、担当者個人の経験や勘を否定したいわけではありません。むしろ逆で、優れた担当者が培ってきた「この企業はここを見る」という感覚は、非常に価値のあるものだと思っています。ただ、その感覚を担当者一人の頭の中に閉じ込めておくのはもったいない。感覚を言語化し、記録として残し、次の候補者にも使えるようにする。これができて初めて、組織としての支援力が積み上がっていくのだと僕は考えています。

仕組みは4つのステップで動いています

具体的な流れをご紹介します。

1つ目は、合否理由の自動蓄積です。求人・候補者・選考プロセスという3つの箱に、選考結果が出るたびに理由を非破壊で追記していきます。人手をかけず、正本に情報が積み上がっていく設計です。実際に約1,000件のデータも、一括で取り込みが完了しています。

2つ目は、4つの一次情報の掛け合わせです。①過去の合否・見送り理由、②企業情報(評価軸や面接官の傾向)、③求人情報、④本人の履歴書・職務経歴書。この4つを掛け合わせることで、初めて「この企業×この求人×この人」に固有の対策が生まれます。

3つ目は、対策の下書きです。一般論ではなく、「この企業が過去どこで見送りを出したか」「この候補者が何を準備すべきか」という具体に接地した対策を、AIが下書きします。

4つ目は、人による最終確認と送付です。AIは蓄積と下書きまでを担う。判断と送信は、最後まで人が担います。ここは絶対に譲らないラインだと僕は考えています。

この4ステップの中で、特に手応えを感じているのは2つ目の「掛け合わせ」の部分です。合否理由だけを見ても、企業情報だけを見ても、対策は一般論の域を出ません。ですが、過去の見送り理由と、企業の評価軸と、候補者本人のレジュメを同時に突き合わせることで、初めて「この人が、この企業の、この選考で、何を準備すべきか」という一段深い対策が見えてきます。人間の担当者がこれを毎回頭の中でやろうとすると、相応の時間と経験が必要です。AIが得意なのは、まさにこの「複数の一次情報を同時に参照して、固有の文脈に落とし込む」という作業だと僕は考えています。

技術よりも、品質ルールの方が重要だと痛感しました

このシステムを実際のクライアント企業に導入する過程で、いくつかのフィードバックをいただきました。その中で確立していったのが、いくつかの品質ルールです。

候補者本人のレジュメに接地した内容だけを書く。他の候補者の経歴を流用しない。当社の内部データの状態を候補者に語らない。

言葉にすると当たり前に見えるかもしれません。ただ、これを明文化し、守らせることの方が、AIの技術そのものよりもよほど重要だと僕は思っています。AIは放っておくと、もっともらしい一般論や、他の候補者の情報を混ぜ込んだ文章を作ってしまう可能性があります。それを防ぐのは技術力ではなく、地道なルール設計と運用です。この点は、AI活用を検討している経営者の方に、特にお伝えしたい部分です。

効果は効率とクオリティの両面に出ています

数字で見ると、業務効率の面では、月間15件×現状35分/件のところが、AI活用後は8分/件になり、月あたり約6.8時間の削減につながっています。

クオリティの面では、企業ごとの評価軸に接地した対策により、一次・二次面接の通過率が3〜5pt向上する想定です(あくまでレンジ表記であり、保証値ではありません)。この数字は控えめに見えるかもしれません。ただ、面接対策という「候補者本人の努力に依存しがちな領域」で、仕組みによって数ポイントの改善が見込めるというのは、個人的にはかなり意味のある結果だと捉えています。

なお、面接対策と近い文脈で、面接後のフォローを半自動化する取り組みも並行して進めています。面接の合否連絡は、企業都合でしばしば数日から数週間止まります。実際に、直近60日で面接関連だけで875スレッド、総受信は1万通を超えていました。この中に、結果連絡が来ないまま放置されている案件が実際に存在していました。毎朝、面接系スレッドを収集し、AIが調整中・実施待ち・結果待ち・対象外に分類し、候補者と企業で名寄せする。催促そのものは人がワンクリックで行い、宛先は必ず企業またはATSに限定しています。求職者本人に催促を送ることは絶対にありません。こちらは記事の主題ではないので詳細は割愛しますが、面接対策と同じ根っこの発想、つまり「取りこぼされている情報を仕組みで拾う」という考え方だと思っていただければと思います。

導入には、技術以前に3つの準備が必要です

このシステムを導入するために必要なのは、高度なAI技術ではありません。まず、ATSに合否理由・面接フィードバックの蓄積フィールドを設計できること。次に、選考結果を受領する共有メールボックスがあること。そして、対策文面の品質ルールについて、社内で合意ができていること。

この3つが揃って、初めてAIが力を発揮します。逆に言うと、この3つが揃っていない状態でAIツールだけを導入しても、期待した効果は出ないと個人的には思っています。

正直に申し上げると、これは地味な準備です。派手な機能を一気に導入するような話ではなく、蓄積フィールドを設計し、メールボックスを整理し、品質ルールを言葉にする。この積み重ねだと思います。ただ、ベンチャー企業の採用支援に長年携わってきた実感として、AI活用がうまくいく組織とそうでない組織を分けるのは、まさにこの地味な準備をやり切れるかどうかだと僕は感じています。技術は追いつきます。準備の丁寧さの方が、最後は差になります。

最後に、皆さんいかがでしたでしょうか。

面接対策は、一人ひとりの候補者にとって、内定を左右する重要な支援です。ただその質が、担当者個人の記憶や経験値に依存しているのが、多くの人材紹介会社の現状ではないかと思います。見送りの理由は、次の候補者の合格材料になり得る。この前提に立ち、蓄積から企業別の傾向分析、対策資料の自動送付までを仕組みで回すことで、一人ひとりへの支援の質を底上げできる。これが、僕が今回お伝えしたかったことです。

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