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毎朝1通のダイジェストから、AI駆動経営は始まる

山根 一城
毎朝1通のダイジェストから、AI駆動経営は始まる

「今日の面談、何時からでしたっけ」

これ、正直、僕らの業界であるあるだと思うんです。担当者が10人いれば、今日1日で組まれているキャリア面談は何十件にもなります。カレンダーを見ればわかる、と言えばそれまでなんですが、実際には「誰の面談か」「どの媒体経由か」「履歴書は届いているのか」「経歴のどこを聞くべきか」——これらは全部バラバラの場所に散らばっています。カレンダー、共有メールボックス、記録システム、そして担当者の頭の中。毎朝、この4つを行き来して情報をかき集めるところから1日が始まる。これが人材紹介という仕事の、あまり語られない裏側だと思っています。

僕は最近、この「情報を集める」という工程そのものを撤廃できないか、という実験を続けています。今日はその中でも一番手前にある「毎朝1通のダイジェスト」という仕組みについて書きたいと思います。人材紹介の業務効率化にAIをどう使うか、という話は世の中にたくさんありますが、僕がこの1年やってきたのは、ツールを増やすことではなく、人が普段いる場所(メールの受信箱)に仕事の方から来てもらう、という設計でした。あくまで山根の個人的な実践知の範囲ですが、共有できる話をまとめてみます。

情報を「探しに行く」から「届く」へ変える

まず前提として置いておきたいのは、人材紹介の現場で失われている時間の多くは、意思決定そのものではなく、意思決定に必要な情報を集める作業だということです。誰と何時に面談するか、履歴書は届いているか、経歴のどこにフックがありそうか。これらは判断ではなく、単なる確認作業です。確認作業に時間を使っている限り、担当者の頭は「今日の準備」に消費され、候補者と向き合う本質的な時間が削られていく。これは構造の問題であって、個人の能力や気合いの問題ではないと考えています。

僕らが最初に手をつけたのは、この確認作業をまるごと1通のメールに集約することでした。毎朝5:30、複数担当者のカレンダーを横断して「キャリア面談」だけを自動抽出し、候補者ごとにカード形式で配信する仕組みです。1枚のカードには、時刻・候補者名・担当者・参加リンクに加えて、転職媒体名(タイトル判定、判定できなければGmail検索で自動補完)、履歴書・職務経歴書の受領有無バッジ、そしてAIによる事前ブリーフィング(一言サマリー・経歴要点・強み・確認すべき点)が載ります。添付されたPDFの本文まで読んで要約するので、朝カレンダーとメールボックスと書類フォルダを往復する作業は、もう発生しません。

ここで大事なのは、これが「便利な自動化ツール」という話に留まらないということです。人は忙しいとき、新しいツールを開く余力がありません。だからこの仕組みは、担当者が普段から必ず開く受信箱に、仕事の方から降りてくる設計にしています。ツールを追加するのではなく、動線を変える。ここが地味ですが一番効いているポイントだと感じています。

経歴を作文しない、という一線

このブリーフィング機能を設計するときに、僕がどうしても譲れなかった一線があります。それは「情報が薄い候補者について、AIに経歴を作文させない」ということです。

AIに要約や補完をやらせると、情報が足りない部分を、もっともらしい文章で埋めてしまうことがあります。これは非常に危険です。特に人材紹介では、候補者の経歴情報がそのまま企業への推薦材料になりますから、事実でないものが1文字でも混ざれば、それは信用の問題に直結します。なので、この仕組みでは情報が乏しい候補者については、AIが正直に「情報が薄い」と示し、基本の確認項目だけを提示するようにしています。埋められない部分は、埋めない。これは技術的な制約というより、設計思想として意図的に選んだ判断です。

もうひとつ、あえて採用しなかった機能があります。転職媒体サイトへの自動ログインによる情報取得です。技術的にはできなくはないのですが、規約リスクが高いと判断し、意図的に見送りました。代わりに、候補者とのやり取りが集約されている共有Gmailを起点に情報を収集する設計に統一しています。できることを全部やるのではなく、やらないことを決める。これもAI駆動経営の一部だと、僕は考えています。

担当者の記憶に依存した管理は、もう限界だと思う

面談準備の次に手をつけたのが、選考が進んでいく過程で起きる「ボールの所在不明」問題です。人材紹介の選考は、求職者・紹介会社・企業という3者の間をボールがリレーされていく構造をしています。ところが、このボールが今どこにあるのかを正確に把握できている担当者は、実はそう多くないのではないかと思っています。

記録システム上のフェーズ更新はどうしても遅れがちです。メール上ではすでに一次面接が終わっているのに、記録システムは「書類推薦」のまま止まっている、というようなことが日常的に起きます。「結果を催促すべき案件」「日程を急かすべき案件」が、担当者の記憶頼みになっている。これは属人化というより、構造的に情報の更新タイミングがずれてしまう問題です。担当者の記憶力の話にすり替えてはいけないと、僕は思っています。

そこで作ったのが、選考フェーズを1画面ならぬ1通のメールで可視化する仕組みです。毎朝5:30、記録システム上の実施中プロセスを全件読み取り(この段階では書き込みは一切行わないドライランです)、Gmailに残っている実際のやり取りの証跡と突き合わせて、進捗順に並んだパネルを配信します。内定→結果待ち→実施待ち→調整中→書類推薦→応募承諾という順番で並び、特に結果待ちの案件には「結果催促」ボタンがついています。記録システムへの書き込みが発生するのは、担当者がこのボタンを押した瞬間だけです。

「前進ボタン」を主役にしなかった理由

正直に言うと、この仕組みは最初の設計がうまくいきませんでした。最初は「前進ボタン」、つまりフェーズを次に進めるボタンを主役にして作っていたんです。ところが実際に動かしてみると、かえって分かりにくくなってしまいました。

理由を突き詰めて考えると、単純なことでした。機械的に断定できる前進、たとえば書類推薦から書類選考通過のような、証跡さえあれば誰の目にも明らかな遷移は、別の自動連携の仕組みがすでに先回りして処理していたんです。だとすれば、このパネルが担うべき役割は「前進させること」ではなく、「人の判断が要る状況を把握させ、催促を促すこと」だけに絞るべきだった。これに気づいてから、パネルの役割を大きく絞り込みました。機械が決められることは機械に任せ、人にしか判断できないことだけを、人の前に差し出す。この切り分けが、この仕組みの一番の核だったと思っています。

もうひとつ、地味ですが重要な学びがありました。複数のダイジェストメールを並走させると、担当者は「結局どれを見ればいいのか分からない」という状態に陥ります。便利な機能を増やすほど、実は現場は混乱していく。これは皮肉な話ですが、現場では本当によく起きることだと感じています。ボールの所在という単一の軸に情報を統合し、1通にまとめてから、ようやくこの仕組みは実運用で機能し始めました。あれもこれも見せるのではなく、1つの軸だけを見せる。情報設計において、これは相当本質的な原則ではないかと、個人的には考えています。

段階を踏んで導入する、という現実解

ここまで書いてきた2つの仕組みは、どちらもいきなり全部を導入する必要はありません。むしろ、いきなり全部やろうとすると失敗する気がしています。

面談ダイジェストであれば、①面談の集計配信 → ②転職媒体の自動補完 → ③書類受領バッジ → ④経歴要約、という順番で段階的に足していくことができます。選考フェーズパネルも同様で、導入初期は必ず記録システムの読み取りのみ、書き込みは一切行わないドライラン期間を設けることをおすすめします。いきなり自動で書き込みが走る仕組みを本番投入するのは、現場の信頼を得る上でもリスクが高いと考えています。まずは「読み取って、提案として見せる」だけの期間を経て、担当者自身がボタンを押すという1点だけに書き込みを絞り込む。この慎重さは、遠回りに見えて実は一番の近道だと、これまでの実践を通じて感じています。

導入の要件としては、Googleカレンダーが担当者間で共有されていること、面談タイトルの命名ルールがある程度統一されていること、そして候補者とのやり取りが集約された共有Gmailアドレスがあることが前提になります。特別なシステムを新しく導入する必要はなく、多くの紹介会社がすでに持っている基盤の上に乗せられる設計にしているつもりです。

この仕組みが本当に変えているもの

最後に、これは僕の個人的な見立てですが、この2つの仕組みが変えているのは、単なる作業時間の削減ではないと思っています。毎朝の面談手集計、書類確認、経歴確認、そして「催促すべき案件を思い出す」という記憶依存の管理。これらはどれも、担当者の集中力を静かに奪い続けていた作業です。1日の始まりに、こうした確認作業から解放された状態でメールを開けるということは、その日1日、候補者や企業と向き合う時間の質そのものを変えるのではないかと感じています。

AI駆動経営、という言葉を聞くと、大がかりなシステム導入や、劇的な変革をイメージされる方も多いかもしれません。ですが、僕がこの1年やってきたことは、もっと地味で、毎朝1通のメールから始まっています。散らばっていた情報を集約し、人が普段いる場所に仕事の方から届ける。派手さはありませんが、この積み重ねこそがAI駆動経営の実態に近いのではないかと、個人的には考えています。

皆さんの組織では、毎朝の情報収集にどれくらいの時間がかかっているでしょうか。もしそこに心当たりがあるようでしたら、まずは1通のダイジェストから始めてみることをおすすめしたいと思います。