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企業開拓のリストアップを、担当者の余力に頼るのをやめた

山根 一城
企業開拓のリストアップを、担当者の余力に頼るのをやめた

「山根さん、今週って何社くらい新規開拓できてるんですか?」

正直、この質問にすぐ答えられない時期がありました。担当者に聞けばそれぞれ答えは返ってくるのですが、全社で合計何件動いているのかは、誰かのカレンダーを一枚ずつ見比べないとわからない。人材紹介 企業開拓の現場では、こういう「見えているようで見えていない」状態が、実は当たり前に起きているのではないかと思っています。

開拓は9工程の最上流で、ここが枯れると全部が細る

人材紹介のオペレーションは、求人企業の開拓から始まり、集客・面談・書類提出・成約まで、僕は9つの工程で捉えています。この中で企業開拓は最上流に位置します。ここの流量が細れば、下流の集客も面談も書類提出も、当然ながら同時に細っていく。当たり前の話ですが、当たり前すぎて数字で管理されていないケースが多いと感じています。

ポテンシャライトもそうでした。開拓は「頑張れば増える」「余力があるときにやる」という位置づけになりがちで、日々のカレンダーに埋め込まれてはいるものの、それが会社全体としてどれだけの量になっているのか、誰も正確には把握していませんでした。個人的には、この「なんとなく回っている感」こそが一番危ないと考えています。売上や成約数といった下流の数字は毎週追いかけるのに、その土台になっている最上流の数字だけが抜け落ちている。この歪さに気づけていない会社は、僕らを含めて多いのではないかと思います。

なぜ最上流の数字が見えなくなるのか、理由は2つでした

原因を分解すると、僕らの場合は2つの構造に行き着きました。

1つ目はカテゴリの混在です。担当者のGoogleカレンダーには、採用企業との開拓商談だけでなく、AI事業の商談、コンサルティング、会食、個人の予定までが同じ面に並びます。どれが開拓商談なのかは、人間が毎回目視で見分けるしかありませんでした。カレンダーというのは本来、個人の時間管理のためのツールです。それを会社全体の経営指標として読み解こうとすること自体に、そもそも無理があったのだと思います。

2つ目は担当の分散です。複数の担当者がそれぞれ独立して動いているため、今週どの企業と何件商談する予定なのかを把握しようと思うと、担当者ごとのカレンダーを一人ずつ見比べる必要がある。この確認作業自体が地味に重く、結果として誰も毎週やらなくなり、見落としと後追いの確認が日常化していました。

これは仕組みの問題であって、個人の怠慢では一切ありません。むしろ真面目にやっている担当者ほど、目の前の商談準備に時間を使いたいはずです。そこに「今週の全体像を把握する」という余計な認知負荷を乗せていたのが、そもそもの構造的な無理筋だったと捉えています。誰かがサボっていたわけではなく、仕組みが個人の余力に依存する形で設計されてしまっていた。ここを直さない限り、どれだけ気合を入れても同じことが繰り返されると考えています。

担当者の余力に頼らない仕組みに変えた、その中身

結論から言うと、僕らがやったのは「人が探しに行く」を「機械が拾ってきて届ける」に変えることでした。仕組みはシンプルです。

毎朝8:30台に、機械が担当者のGoogleカレンダーを自動で横断します。当日分に加えて、今後7日分の予定もまとめて読みに行きます。ここでポイントになるのが、開拓商談だけをどうやって正確に選り分けるかという点です。

予約ページ経由で入る採用企業商談には、自動的に一意のマーカー文字列が付与される導線を組みました。このマーカーを正規表現で判定し、開拓商談だけを機械的に抽出しています。会社名や先方の担当者名は、商談タイトルから決定論的にパースします。そのうえで「昨日開拓できた企業(実績)」と「今後7日の商談予定(先行き)」の2部構成で、毎朝メールとして配信する形にしました。

これで、誰かに聞かなくても、今週の開拓の全体像がメール1本で見える状態になりました。朝メールを開けば、昨日何社と話せたのか、今週これから何社と話す予定なのかが、担当者を横断してひと目で並んでいます。地味な変更に見えるかもしれませんが、個人的にはここが一番効いたポイントだと思っています。

導入した直後の実務イメージも書いておきます。担当者側からすると、やることは実は何も増えていません。予約ページ経由で商談が入る、という今までどおりの動きをするだけで、裏側でマーカーが付与され、翌朝には勝手にメールが届く。担当者に新しい入力作業をお願いしないというのは、この手の仕組みを設計するときに僕がいつも意識している点です。運用ルールを増やして精度を上げようとすると、たいてい現場が守ってくれず形骸化します。人に新しい手間を頼まず、既存の導線の中に判定材料をあらかじめ仕込んでおく。これができるかどうかが、仕組みが定着するかどうかの分かれ目だと思っています。

AIに「それっぽさ」を判断させたら、むしろ精度が落ちた話

ここは失敗談として正直に書いておきたいところです。

最初は、AIに商談タイトルを読ませて「これは採用開拓っぽいかどうか」を自然言語で推測させていました。ところがこれが誤検知の連発だったんです。理由は単純で、人材紹介という業界そのものが、日常的に「採用」「商談」という単語を使い倒しているからです。AI事業の商談にも、コンサルの打ち合わせにも、これらの単語は普通に登場します。「それっぽさ」で判定させると、業界の言語特性そのものにノイズとして跳ね返ってくる。

これは迷信です。AIに投げれば何でも賢く判定してくれる、という前提そのものが、少なくともこの業務では成立しませんでした。

最終的には、AIによる推測判定を撤去し、予約ページに紐づく一意のマーカー文字列での決定論的な絞り込みに全面転換しました。判定はもはやAIの仕事ではなく、正規表現の仕事です。ここは僕自身、AI駆動の仕組みを設計するときに繰り返し立ち返っている観点なのですが、「AIを使わない判断も含めて設計する」ことこそが、AI活用の質を分けると考えています。何でもAIにやらせようとする発想自体が、実はまだ固定観念なのかもしれません。判定条件が事前に一意に決まっているものは、AIではなくルールに任せる。逆にAIに向いているのは、判定条件そのものが揺らぐような、文脈理解を要する仕事です。この線引きを持っておくだけで、設計の精度はかなり変わると思っています。

商談の中身も、担当者の頭の中に留まらせない

企業開拓の商談通知が主役だとすると、その先で商談の中身をどう扱うかという論点も避けて通れません。ここは軽く触れる程度にとどめますが、募集背景や求める人物像、選考の温度感、紹介料率といった一次情報は、求人票には載らない最重要資産です。にもかかわらず、商談に出た担当者本人の頭の中に留まりがちで、共有が数日遅れれば、その間に他社が先に候補者へ打診してしまう、というシビアな世界でもあります。

ポテンシャライトでは、商談録画を毎時25分に自動で巡回し、AIが求人ダイジェスト(事業内容・募集職種・ターゲット像・特徴・紹介料率・商談日)を生成してSlackへ自動投稿する仕組みも動かしています。ダイジェスト作成は月間2件×従来60分/件だったものが、AI導入後は5分/件になり、月あたり約1.8時間の削減になりました。1面談あたりの書類提出数も+0.3〜0.7件程度の増加を想定していますが、これはあくまでレンジ表記であって、保証できる数値ではありません。ここは開拓通知とは別のレイヤーの話ですが、「最上流で拾った企業の情報を、下流までちゃんと運ぶ」という意味では地続きの取り組みだと考えています。開拓した瞬間の熱量が一番高い一次情報を、その日のうちにチーム全員が使える形に変えておく。これも、余力頼みの共有から仕組みでの共有への転換だと捉えています。

削減できた時間より、可視化できたことの方が価値は大きい

商談通知の仕組みによる業務効率の変化は、月間20件×従来10分/件だったチェック・共有作業が、AI導入後は1分/件になり、月あたり約3.0時間の削減になりました。ただし、この件数と分数は仮置きの数字であり、御社の実態に合わせて置き換えていただく前提の目安です。

正直、時間の削減効果自体は、この取り組みの本質ではないと僕は捉えています。もっと大きいのは、最上流の商談母数が毎日可視化されたことです。開拓の歩留まりに直接効くレバーではありませんが、下流のすべての工程の土台になる数字を、担当者の余力や記憶に頼らず、会社として毎日確認できる状態にできた。この構造の転換こそが、今回の一番の成果だったと思っています。

運用してみて改めて気づいたのは、可視化そのものが行動を変えるということです。毎朝数字が届くようになると、開拓が薄い週は誰に言われなくても本人が気づくようになりました。数字で管理されると人は身構えるものですが、実際には「見えていないから放置していた」だけで、見えてしまえば自然と手が動く。仕組みを入れる前は、僕らも「監視されている感」を心配していたのですが、蓋を開けてみるとそこはほとんど杞憂でした。

導入に必要なものは、決して大掛かりではありません。Googleカレンダーの担当者間共有設定、予約ページなど商談タイトルに機械可読なマーカーを仕込める導線、そして通知用のメール配信の仕組みです。もし予約ページのような導線がまだない場合でも、専用カレンダーを分離する、タグ付けを必須運用にするといった形で、代替の設計から支援することは可能だと考えています。

最後に、皆さんいかがでしたでしょうか。

企業開拓は、人材紹介の事業構造の中で最も上流にありながら、最も「頑張り」で片付けられがちな工程だと思っています。ポテンシャライトではこれまで400社ほどのHR支援に携わってきましたが、開拓の初速が個人の余力に依存している企業さんは、決して少なくない印象です。仕組みで拾い、仕組みで届ける。この転換は、そこまで難しい話ではないというのが、僕の個人的な実感です。

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